<塾から始まる物語>

毎月ISSでは塾生に向けてISS便りを発行しております。

その中で「塾から始まる物語」の連載を始めました。

ISSの過去の塾生で様々な成長を遂げた生徒の実話を書きました。

成績だけでは測りきれない生徒の成長のご紹介をいたします。

第一話 【ある日突然】

 

「先生・・・。俺もう学校やめたい!」

高校1年の6月初旬、学習塾のISS教室に通っている男子生徒の圭介が泣きながら塾の教室に入ってきた。

「どうした・・・?何があったんだ・・・?」

圭介は机にうつぶせになって泣きじゃくるばかりで何も答えることが出来なかった。 私は隣に座り、肩を抱き寄せ、再びゆっくりと言葉をかけた。

「どうした?」「何があったの?」「先生に話せる?」

しばらくして、しゃくりあげながら、圭介は話をし始めた。

「クラスの後ろの席の奴が、毎日後ろから背中を小突いてくる。やめろと言ってもずっとちょっかいをかけて笑うだけ。遣い走りをさせられて、ジュースを買って来いって言われて買ってきてもお金をくれないし、遣いを断ったら昼ごはんの時も放課中もふざけて腕にパンチをしてくる。担任の先生にそのことを言った。注意はしてくれるけど、全然やめてくれなくて。最近はどんどんエスカレートして、そいつの友達と二人で悪ふざけしてくる。もう限界だ!」

口火を切ったように言葉が次から次に出てきた。言い終えると又、大きな声を出して泣き始めた・・・・。

 

圭介は中学1年の時からISS教室に通っていた。カードゲームが大好きで英語が苦手な素直で子供っぽい男の子だった。成績は下の下。150人中147位の成績だった。特に英語が嫌いで、英語の単語を覚えるのも苦手。英語の時間になると5分で目が寄りはじめ、夢現の中で睡魔と闘いながらの授業だった。学校の宿題もやらない、塾に来るのも遅れてきて、テスト勉強も一夜漬けの典型的な落ちこぼれの生徒だった。そんな中でも数学だけは、なぜか生き生きと問題を解く姿が印象的だった。  10/4更新

第二話 【中学3年の時の保護者面談】

 

圭介が中学3年の年末近い2学期の終盤、圭介の母は学校での進路面談の時に担任の先生にこう告げられました。

「圭介君は成績も良くないし、宿題もあまりやってきません。内申点も9教科で16点。普通の高校に進学しても授業についていけないし、調理系か電気系の専門学校へ進学して手に職をつたほうが圭介君の為だと思いますが、どうされますか?」

 

圭介の母は担任の先生に何も言えずに家に帰り圭介と話をした。

「圭介、どうするの・・・?」

その日、圭介の母から教室に電話があった。「・・・・と言われました。どうしたらいいでしょう?」

 内申点を見る限り国語1、数学3、英語1、社会2、理科2、実技教科は保健体育が1で美術、技術家庭、音楽が2で高校の合格基準には少し足りない感じだが、いろいろな生徒を見てきている私には考えがあった。私の住んでいる地区では全県模試という志望校の合格可能性の目安がわかる業者テストがあって、その地区の中で圭介が書いた志望高校の一つに“私立H高校の専門科”があった。成績表を分析すると「数学、受験者数80人中3位」というのが目に留まっていた。

又、塾の経営者、先生向けの推薦試験、一般試験の内申点の合格基準、遅刻や早退、欠席数の基準などの合格基準情報を示唆していただける高校入試説明会というのがあり、それに出席して合格のするためのデータ集め、高校の入試担当の先生との名刺交換などを通して試験問題の出題傾向や面接試験での質問内容などを聞いたりしていました。

その電話口で圭介のお母さまに伝えました。「お母さん、大丈夫です。圭介は高校に行かせます。だって数学は80人中3位ですから。」   10/11更新

 

 

第三話【やる気のスイッチ】 

 

 次の日、圭介がいつも通りに始業時間に遅刻してISS教室にやってきた。 「先生、俺、専門学校だって。高校行けないってさ。」 

 なんとも他人事のように自分のことを話し出した圭介。

「馬鹿野郎!!高校行かんくってもいいのか?お前?中卒で手に職つけても、よっぽど頑張らんと給料ちょこっとしかもらえんぞ。そんなんでいいのか?」

 お金の事に関しては敏感な圭介が食いつき気味に聞いてきた。

「そんなに給料違うの?」

 私はホワイトボードの前に立ち、計算式をホワイトボードに書きながらマニュアルに載っているような話を始めた。

「一般サラリーマンの生涯獲得賃金って知ってるか?飲まず食わずで給料をすべて貯金したとして約2億円。中卒の初任給が手取りで12万円。高卒の初任給が16万円で大卒が20万円。中卒は稼げるお金が毎年1万円ずつ上がっていったとしてボーナス加算して60歳定年までに稼げるお金が約188百万円、高卒が248百万円、大卒が287百万円。生涯で中卒と大卒では1億円の収入格差があるんだぞ。」 

「お前、専門学校行って、中卒扱いでもいいのか?」

 子どものような素直な目をした、圭介の目の色が変わった。

「ダメダメ!そんなことダメに決まってる。俺、大学行く。」

「よっしゃ!!じゃあ先生の言うとおりにしたら絶対高校に合格させたる。頑張れるか?」

「うん。俺、頑張る。」

 次の日から、圭介は週に2回の授業コースだったが、ほぼ毎日教室に通い自習しながら受験勉強のスタートラインに立った。 相変わらず英語の授業になると目が寄って眠たくなってきていたが、そうなると顔を洗いに洗面台に向かい顔を洗って席に座った。その日を境に授業中にウトウトすることはなくなった。

 

4話【入試直前】 

 

中学3年生も10月になっていた。

基礎学力の無い圭介にとって受験勉強は本当に「頑張る」以外の何物でもなかった。好きな数学は応用問題までしっかり解いて受験直前の2月までに偏差値は55程に上がっていくのだが、英語のほうは単語を重点的に覚えて何とか偏差値を40台前半に乗せるのが精いっぱいだった。国語は漢字と文章読解問題を中心に解き進めたが、記述問題は手を出さず、漢字、穴埋め問題と選択問題に特化して学習を進めた。この地方では高校入試でも私立単願(通常は公立高校2校と滑り止めとしての私立高校を複数校、最大で5校受験する。)というものがあり、その高校へ単願で申し込み、その高校に入る約束として、いわゆる入試の点数に一定加算点が加えられる入試方法を選んだ。受験科目は国語、数学、英語の3教科と面接だった。

2月に入り入試が始まった。

試験前日までテスト対策問題を解いて万全の態勢で試験に挑んだ。直前の模試の合格可能性は80%。当日、失敗しなければ合格できるところまで実力を上げてきていた。       

 

 

第5話 【合格発表】

 圭介は私立H高校の入学試験が終わるとその足で一番にISS教室に足を運んだ。

「先生!数学はできたけど国語と英語は難しかった。」

なぜだか、何かを終えた達成感に満ちた顔立ちだった。

試験問題は回収されて自己採点はできなかったので、感覚的な出来、不出来しかわからなかったが、面接はあらかじめ面接特訓して受け答えの練習をしてあったので、どうやらその中から質問が出たらしく、うまく受け答えができたようであった。

同じ中学校から同じ高校、同じ学科を受けた生徒I君がいた。圭介よりも学年順位が上だが、複数校受験している様子だった。

 

合格発表当日、昼一番で圭介から電話があった。

「先生、受かったよ。合格だって。I君はダメだったって。俺ってすごいよね。」

入試の合格、不合格は得意な問題が出る出ない等の「時の運」も作用するので、最後まで気は抜けなかった。合格はできるだろうなと根拠のない自信があったが、今思うと希望的観測だったかもしれません。

「だから言っただろ。絶対合格させたるって!」

「先生の言うこと聞いてやれば圭介は絶対できるんだって。」

「学校の先生は圭介の本当の力を見抜けんかったんだわ。先生は知ってたけどね。」

圭介はキラキラした目をしてうなずいた。

「うん。」

 

そのあと圭介のお母さんから電話がありました。

「先生、ありがとうございました。学校の先生が受験しても受からないと言っていたし、私も圭介が合格するとは思いませんでした。主人はダメでも受験させろと言っていましたが、主人も本当に喜んでいます。ありがとうございました。」

 

「合格したのは圭介君が頑張ったからです。私は圭介君を応援しただけです。頑張る子は応援したくなっちゃうんですよね。圭介君を思いっきりほめてあげてください。」    

 

 

第6話 【合格発表後】    

合格発表があった次の日に圭介に話をしました。

「圭介、試験に合格した後、みんなはどうすると思う。」

「合格したら、みんな入学するまでもう遊ぶだけだわ。俺も合格したし。俺も遊ぶ。」

「ちょっと待って。高校、合格したんだけど、大学に行きたいんじゃなかったっけ。高校卒業するだけでいいの?」

「違う、俺、大学行って給料多くもらいたい。」

「だったら先生、普通に入ることが難しい大学へ入学できる裏技知ってるよ。知りたい?」

「なになに?」

「じゃあ。先生の言うこと聞いたら大学行けるようにしたる。聞きたい?」

「うん、言うこと聞く。」

「じゃあ、みんなが合格して遊んでいるときに圭介だけはまだ勉強して高校入学して5月の中間テストまで受験勉強と同じくらい勉強すること。それが大学に入る近道なんだわ!」

「なんで、なんで?」

「黙って言うこと聞け。先生、圭介を高校に合格させただろう。大学も合格させたる。」

「うん、わかった。明日からも受験勉強続ける。」

「よっしゃ~!じゃあ一足先に高校に向けての勉強始めるぞ。」

こうして学校の担任の先生の言うことを聞いていたらいけるはずもなかった高校に向けての新しい一歩が2月初旬から始まった。         5/7 更新

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